大阪ひろいよみ

 きまぐれ大阪雑談まとまりはありません

『織田作之助と蛍』

奥本大三郎随想集 織田作之助と蛍

 織田作好きならきっと繰り返し読みたくなる、あの「アド・バルーン」の中の高津神社表門筋から道頓堀への細かく記述された街の情景たち。しかし、この本の筆者は、なんと、そこに、”虫”を見ている。いろんな人がこの部分の描写について思いを語っているが、虫に目をつけている人というのは、はじめてだ。

 へえ虫?そんなの書いてあったっけ? 自分も、何度も読んでいるはずなのだがそう思った。虫?

 そもそも虫にはあまり関心がなく、おかげで、この筆者の本をあまり手にしたことがなかった。けれど、織田作に関する話ということで、ぜひ読みたかった。ところが読んでみると、「あ、やっぱ虫の話なんですね」と言いたくなるところ、面白かった。

 それから、奥本さんは大阪の南部の出身とのことで、織田作の大阪弁にその大阪南部の肌合いがあると感じられるそうだ。私は織田作の育った場所と上町大地を挟んだ隣あたりに育った者だが、織田作中の大阪弁にわずかなかすかなごく微少な肌合い差を感じることがあったのは、そうかそのせいか。

 私は北摂地域にある高校大学に通い、その後住むところも北摂となって何十年。あまりミナミの人ではなくなっていることもあって、大阪南部には縁がない。あんまり行ったこともない。だからおそらく大阪南部の言葉の肌合いを知らない。そこを織田作の言葉に感知していたのだろうか。

 実はこの本、図書館で並んでいたところを借りてきて読んだのだが、文章いい感じだなあと思ったので購入するかも。虫に興味がなかったために、このようないい文章を書く人だとはこれまで知らなかった。

織田作之助 (ちくま日本文学 35)

織田作之助 (ちくま日本文学 35)

 

  尾崎名津子「織田作之助論」に、織田が大阪という土地に関して記述しているのは「世相」「木の都」「アド・バルーン」の三作だけであるとあり、そう言われてみればそうだとはじめて気が付いた。この三作がみな載っている文庫は、このちくま版。